
さて、エベン氏が臨死体験をしていろ時、病院に運び込まれたエベン氏はどの様な状態だったのでしょうか。
◆昏睡するエベン氏
医師たちは奥さんに明るく振る舞い対応していましたが、実際のところ、エベン氏は長く持ちこたえられないと見られていました。よしんば死を逃れたにしても、脳を侵食している細菌は、既にかなりの皮質に侵食しており、高次の中枢活動が損なわれている恐れもありました。昏睡状態が長引くほど、慢性植物状態で余生を送る可能性が高くなります。
翌朝、感染症の専門医が検査報告書を持ってきましたが、そこには昨晩中に抗生物質が投与されたにも関わらず、白血球数は上昇を続けており、細菌が何の妨げも無くエベン氏の脳を食い荒らし続けている事を示していました。
医師たちは発症前の数日間にエベン氏について気が付いた事は無いかと、奥さんのホリーに聞きました。すると二、三か月前にエベン氏がイスラエルに旅行に行った事を言いました。担当医はその話を聞き、調査を行ったところ、イスラエルでは数か月前に、重度の感染症患者が運び込まれ、抗生剤を投与したが症状は悪化の一途をたどり、調査の結果、ペストよりも凶悪な大腸菌耐性菌が、イスラエルのテルアビブにあるイヒロフ総合病院で確認された事を発見しました。医師たちは直ぐにエベン氏の脳を襲っているのはその耐性菌ではないかの確認作業に入りました。
しかし水曜日になり、実はこの耐性菌とエベン氏が感染している細菌は、合致しない事が確認されました。これはつまりエベン氏の病状は前例の無い事であり、切迫した状態から絶望した状態に移っていく事を示していました。またここではっきりした事は、細菌性髄膜炎に罹患して、数日間の間、昏睡した患者で完全に回復した患者の症例は一つも無かったのです。
その後、抗生剤を三倍にして金曜日まで四日間にわたる投与をしましたが、一向にエベン氏の状態が改善する事なく、無反応のままでした。そして日曜日、医師たちはエベン氏の家族に対して抗生剤投与の中止を申し出てきました。抗生剤を投与し続けても髄膜炎の改善の兆しも無く、恐らく回復したとしても植物状態である可能性が極めて高いというのがその理由でした。そして家族は結論としてその医師の申し出を承諾し、その後に集中治療室のエベン氏の元へ行きました。そして家族がその手を握った時、エベン氏は目を覚ましたのです。
眼を覚ましたエベン氏は、今まで昏睡状態にあった患者とは思えない程、周囲に目を動かして声を出しました。
「ありがとう」
しかし昏睡から覚めたとはいえ、一週間にわたる昏睡をしていた事もあり、エベン氏は混乱状態の中にあったそうです。それは「ICU精神病」というもので、これは脳機能が長期間にわたり停止した患者に診られる症状で、エベン氏も患者でよく見てきた事を、この時は自身の体験として理解する事が出来たと言っています。
その後、エベン氏は感謝祭の二日前の11月25日に退院して自宅に戻る事が出来ました。発症して二週間少しで自宅に戻ってこれたのです。
◆自己診断と臨死体験であった女性
その後、エベン氏は自分が昏睡状態にあった時の医療記録について確認しました。そこでは患者にする様に自身のカルテを確認し、CTスキャン画像も確認しました。そこで自分がどれほど重症であったのかを、あらためて確認しました。
一般的に脳卒中や脳梗塞、脳腫瘍などの場合には、脳皮質の浅い部分を破壊しますが、深い部位まで破壊する事は、この大腸菌性髄膜炎に及ばないそうです。要はエベン氏は脳の奥にある動物的部位まで損傷が達していた可能性もあったと言う事です。ただし「ハウスキーピング部分」と呼ばれる、動物的な機能を司る部分はかろうじて動いていた様ですが、高次の意識などを司る部位は完全に侵された状態である事は確認出来ました。簡単に言えば、脳全体が膿の覆われていた状態だったそうです。
これでは生還できた事自体が奇跡であると言っても良いでしょう。
エベン氏はこれまでレイモンド・ムーディー氏の著書「かいまみた死後の世界」の書籍について知ってはいましたが、実際に高次の脳機能が消失していると言う段階で、自身が「臨死体験」をするとは考えた事もなく、改めて自身がこの体験した事で、この研究を進める機会に恵まれたと感じたそうです。
また実はエベン氏は養子で、自分を産んだ両親が別にいる事を知りましたので、育ての両親の許可を貰い、その産みの両親の元を訪れたそうです。そこで知った事ですが、実はエベン氏には血のつながった妹がいたらしく、彼女は数年前に事故で既に他界していました。そこで産みの両親に、その妹の写真を見せてもらったところ、そこに居たのはまぎれもなく臨死体験で出会った女性だったのです。
これが発症前にエベン氏が血のつながった妹の存在を知っていたのであれば、それは無意識化にあった記憶が現出して来た出来事とも考えられますが、エベン氏がこの妹の存在を知ったのは、髄膜炎から回復した後である事であり、その容姿もそれまで認知もしていない事から、これはとても興味深い事例であると思うのです。
以上が、アメリカ脳神経外科医の経験した臨死体験の概要です。これより詳細を知りたいという方は、「プルーフ・オブ・ヘブン」を、一度手に取って読んでみる事をお勧めします。医者とは科学的な立場にいる職業なので、そこから自身の体験した事を考察している内容は、とても興味深い事が多く書かれています。
【参考文献】