
もう少しこの手の話題について取り上げてみたいと思います。
私は仏教を信じています。しかしこれは何も「御利益を得たい」とか「幸せになりたい」という事で信じている訳ではありません。そもそも仏教は私達が一般的に考える「幸せ、幸福」の為に説かれた教えではないと思うのです。人はこの世界に生れ落ちてから様々な事を経験します。それは楽しい事もありますが、どちらかと言うと苦しみ悩む事の方が多くあると思うのです。
私はこの人生には何かしらの意味合いがあると思っています。いや、これは信じていると言った方が良いかもしれません。少なくとも私は半世紀以上生きてきた経験から言えば、これまでに様々な事を経験してきましたが、どれを取っても無駄な事はありませんでした。結果、これらの経験により自分自身の「心」に対する洞察を少しは深められたと思うのです。
そしてそこへの洞察を仏教は与えてくれたと考えています。
その事からこの「心」という事への思索をまとめる為にも、この様な記事を書かせて頂いています。興味のある方は、引き続きお付き合いいただけると幸いです。
◆死者の記憶を持つ子供たち
皆さんは輪廻転生という言葉はご存知だと思いますが、果たして人に「生まれ変わり」という事はあるのでしょうか。
以前にAmazon Primeでアメリカのドキュメンタリー番組「前世記憶を持つ子供たち」というものを拝見しました。これは過去世の記憶を持つ子供たちと、その両親を取材したドキュメンタリーです。
アメリカはご存知とは思いますが、キリスト教の国家です。そのキリスト教では「前世」という概念や輪廻転生という事は否定されています。そんな国の家族の中に、前世を語る子供が生まれてきた時、子供もそうですが両親や家族はその事をどの様に捉えるのでしょうか。
この番組の中では、太平洋戦争で硫黄島上陸作戦に参加し、戦死した戦闘機パイロットだった青年の記憶を持った子供や、シカゴのホテル火災で亡くなった黒人女性の記憶を持った子供、また2001年9月11日に発生した同時多発テロの時、WTC(世界貿易センター)ビルに居て亡くなった男性の記憶を持つ子供などが紹介されていました。
これ等の記憶については、番組内でも追跡調査され、その子供が語る記憶にあたる人物が、実際居た事などが紹介されていました。
ここで紹介されていた何れの子供たちも、前世の記憶の中で「死の瞬間」を悪夢という形でフラッシュバックして苦しんだ事も紹介されていましたが、その前世記憶に苦しむ子供たちの両親もまた、自身の信仰する宗教と相容れない子供たちの姿を目の当たりにして狼狽し、苦悩する姿も語られていました。
両親は子供が悪夢で苦しみの中、思い出し語る前世の記憶をもとに自分で調査を行い、そこで合致する人が実際に過去に実在していた事に辿りつきますが、その過程の中で、自分たちが信仰してきた教えとは相いれない前世という事実を受け入れていく姿も記録されていました。
また子供たちも成長する中で、前世の記憶が薄れていくのですが、両親と共にその前世の人格を受け入れながら、新たな自分自身の人生へと歩みを開始する姿も描かれている事に、この人の心とは何かを考えさせられる事が多くありました。
◆輪廻転生という事について
この様な話を見聞きするたび、多くの日本人は仏教の中で説かれている輪廻転生という事を考えてしまうのではないでしょうか。

日本人が考えている輪廻転生とは、過去世にも今と同じ人格の自分があって、それが死んだ後に、その人格が現代に生まれ変わって来て今の自分になっていると言うものですが、実はこの淵源というのは仏教独自なものではなく、古代インドにあったバラモン教の思想が仏教の中に取り入れられたという話があります。
バラモン教には既にこういった思想があり、これは日蓮も御書の中で取り上げているのです。
「其の見の深きこと巧みなるさま儒家にはにるべくもなし、或は過去二生三生乃至七生八万劫を照見し又兼て未来八万劫をしる」(開目抄)
ここは外道の教えとしてバラモン教の事を述べている個所なのですが、そこではバラモン教では二世、三世以前よりはるか昔の過去世を知り、また未来についても遠き未来世まで見通していると述べています。
そして仏教一般では、この輪廻転生の事を六道輪廻と言い、そこでは人が地獄界から天界までの六道の世界をひたすら生死を繰り返すと説き、それはあたかも車輪が回る事に似ているとも言うのです。そしてこの六道から抜け出す事を「解脱」と呼んでいます。
因みに日蓮正宗系の中でも(これは創価学会も基本的に踏襲している教義ですが)、人はこの生死を繰り返す中で、過去世に謗法などを行いそれをが宿業として命に刻み込まれ、現世に生れてはその前世の宿業の結果と報いを受け、苦しんでいると教えます。そしてその苦しみの原因である宿業を断ち切れるのは、自分達の宗派や教団の信心でしかないと教えているのです。
創価学会でいう「宿命転換」という言葉も実はこの輪廻転生という考え方に基づいた教えなのです。
ではこのバラモン教に淵源のある輪廻転生という概念は、果たして本当の事なのでしょうか。ここでこの「前世の記憶を持つ子供たち」のドキュメンタリーを見ると、人にはやはり前世があって、そこから考えたら日蓮正宗系の三世の生命観で言う、こういった過去世の宿業を現世で結果と報いとして受けているという事ついて、さもありなんと思えてしまいます。
しかし仏教を改めてみてみると、仏教の基本は「縁起」に基づいていますので、ここは少し異なる事だと私は思ったりするのです。その事について次回以降に書いていきます。