
前回の記事で、本門の十界の因果について、予定調和という単語で少し考えてみました。
それは人生で起きる出来事は、あらかじめ決められた事であり、それを決めているのは実は自分自身の心の本源であるという事を表すために、この予定調和という言葉を使いました。
◆J.Lホイットン氏の研究から
この事について仏教から離れ、少し別の方向からの話を少し紹介したいと思います。実は久遠実成を理解する上で、大きなヒントとなる話が近年、欧米での心理学や精神医学、またスピリチュアル思想の一部に存在します。

今回紹介したいのは「輪廻転生・驚くべき現代の神話」という書籍の中の話です。
この本は、カナダ国立トロント大学医学部精神科主任教授であり、同大学付属病院精神医であったジョエル・L・ホイットン氏の著作で、欧米では「中間世界の発見者」と呼ばれた人です。(1989年当時なので現在の立場は恐らく違うと思われます)
ホイットン博士は十四歳頃から催眠家の腕を発揮してきたと言われていて、希望者を相手にパーティーの席などでこの技を使うことがあったそうです。しかしこの時は、被験者を前世へ誘導しようと試みたことはありませんでした。
しかし二十代はじめのころ、博士は輪廻転生思想に次第に惹かれていき、催眠技法にさらに磨きをかけていきました。
トロント大学で医師の諸免許をかさねて取得した博士は、同大学の主任精神科医にりました。無意識下の人間の心についてさらに理解を深めたホイットン博士は、トランス状態の被験者たちに精神的外傷の原因となった過去世の記憶を意識にのぼらせるよう指示し、その記憶を被験者が受容させる事で、被験者たちはめきめきと劇的な回復をとげたそうです。しかしホイットン氏自身は何故そうなるのか満足のいく説明は出来なかったそうです。またホイットン氏自身も前世療法を精神疾患の治療法として効果あるものと実感はしていましたが、この段階では彼自身、前世という存在を完全には信じていなかったそうです。
ある時、被験者に対して退行催眠(前世への催眠誘導)の最中、ホイットン氏は誘導の仕方をミスしてしまいました。彼は治療の為に、被験者を幾世代もの過去世に誘導し、それぞれの生の記憶を辿っていく事をしていましたが、これは被験者で「ポーラ」という女性を催眠で誘導していた時、その女性の前世の人格である「マーサ」という人物に対してこう誘導しました。
「あなたがマーサになる前に戻ってください」
この被験者であるポーラとは何度か催眠誘導を行っていたので、この「マーサ」の前の人格はカナダ人の主婦である事は理解していました。その事からその主婦の人格の声に変わる事を期待していたのですが、「マーサ」である被験者のポーラは抑揚ない口調で語り始めたのです。
「私は、、空の、、上にいます。農場の家や屋根が見え、、朝早く、、太陽は、、昇り始めたばかりです。」
この声にホイットン氏は耳を疑いました。ポーラが空の上に居るはずはない。私は何か誘導を間違えてしまったのだろうか。催眠誘導とはプログラミングに似たようなもので、言葉一つを間違えてしまうとあらぬ方法に行ってしまう事があるそうです。そして思い返す中でポーラ(被験者)に対する誘導の言葉を間違えてしまった事に気付いたのです。
本来であれば「あなたがマーサになる前”の人格”に戻ってください」と誘導すべきところを、”の人格”という単語を抜いてしまい誘導してしまったのです。
このミスに気付いたホイットン氏は途方に暮れながらもポーラに尋ねました。
「あなたは空の上で何をしているのですか?」
するとポーラは答えます。
「私は、、、産まれるのを、、待っています、、母のする事を、、、見ています」
ホイットン氏は続けて尋ねます。
「お母さんはどこへいるのですか?」
するとポーラは答えます。
「母は、、、ポンプのところで、、バケツに水を汲んでいます。とても大変そうです、、」
続けてホイットン氏は尋ねます。
「何故大変なのですか?」
ポーラは答えます。
「私の重みで、、お腹に気を付けてと母に言ってあげたい。母体の為にも、私の為にも」
ホイットン氏は聞きました。
「貴方の名前はなんですか?」
するとポーラは答えたのです。
「私の、、、名前は、、ありません」
この後、ホイットン氏はポーラのこれまでの記憶を忘れさせ、被験者を現代の時間へと戻し、この回の退行催眠は中止しました。
この治療の後、ホイットン氏はこのポーラの証言などを落ち着いて検討し、そこでの結論としてポーラが語った記憶とは、前世の人格であるマーサと、更にその前世の人格であるカナダ人の主婦との間の記憶、ホイットン氏はこれを「中間世」と呼びましたが、要はカナダ人の主婦が亡くなり、次にマーサとして生まれるまでの間の記憶を呼び戻したのではないかという結論に達しました。
仏教でいう「本有(いま生きている状態)」「死有(死を通過する状態)」「中有(生と生のはざまの状態)」のうち、「中有」としての記憶を博士は「中間世」として位置づけしました。また博士は独自に輪廻転生についても研究を勧めましたが、そこではチベット仏教を足掛かりとして研究を勧めました。チベット仏教では「中有」の事を「バルト(川の中州の意味)」と呼んでいたので、博士は中間世の事をバルトと呼ぶ事にしたのです。
この退行催眠の誘導のミスをきっかけとして、そこで垣間見えてきたバルトの世界に興味を持ったホイットン氏は、この催眠誘導で前世ではなく中間世についても研究を進めようと、その後、自身の患者の中から被験者を選別し、多くの中間世(バルト)の記録を得る事が出来ました。そしてそこからホイットン氏が見つけた中間世の実像と、それがその後の人格と、その人生にどの様な影響を与えるのか独自に調査を進めたのです。
そこでホイットン氏が導き出したものは、実は大乗仏教の説く輪廻転生観や宿業論にとても親和性のある内容となっていました。
次回はホイットン氏の臨床例について、紹介したいと思います。
【参考資料】
「輪廻転生・驚くべき現代の神話」 J.L.ホイットン著